
「男の一人暮らしではやはり、食事のことが面倒のようだ」
ネジとの朝稽古を終えたヒアシが、機嫌の良い顔でヒナタに言った。
ヒナタは、みんなが食べ終わった朝食の食器を盆に載せ、片付けようとしていた手を止める。
「ネジ兄さんがお帰りになる前に言って下さったら、何かお弁当を用意しましたのに……」
ネジの役に立てるチャンスを掴み損ねたと感じたヒナタは、がっかりしてしまった気持ちのままに、父に不満を言う。
しかしヒアシは、ケロッとした顔のままお茶を飲み、柔らかく微笑んだ。
「不便なのは今日一日ということではないのだから、朝、渡せなかったからといって、もう渡せないと思うのも変ではないか。お前が、ネジに弁当を作ることを厭わないというなら、時々は差し入れを持って行ってやればいい」
娘ばかりで息子を持てなかったヒアシは、ネジが可愛いらしく、過去のわだかまりが解消されて以降、随分と目をかけていた。
天才的なネジの能力は鍛え甲斐もあるのだろうし、朝の稽古も、ヒナタやハナビに稽古をつけるのとは違った楽しみがあるに違いない。
ヒナタはそんな父の表情を見て、そして、笑みを浮かべた。
「そうですね。朝からお渡しするよりも、程よい時間にお持ちする方が、美味しく食べて頂けるでしょうし」
止まっていた手を再び動かし、ウキウキと片付けのスピードを上げながら、ヒナタは言葉を返す。
きっと、ヒアシは気付いていまい。
ヒナタの心の奥に咲いている花に……。
兄妹のように仲の良い従兄妹としか思っていないであろう父には内緒の本音。
ネジに、手料理を食べてもらいたいという、女の心。
密やかに咲かせ、密やかに散らす予定の儚い花が、それでも、ヒナタの胸の中で、喜びに輝いた。
父ヒアシからの提案という名目があれば、きっとネジにも変に思われることなく、弁当を受け取って貰えることだろう。
玉砕するその日まで、少しでもネジの傍に寄り添えたら、それで幸せだと、ヒナタは思っていた。
迷惑をかけるだけの告白など、考えてもいなかったし、自分を選んでくれることはないと、諦めきっていたのだ。
その自分を情けないと思いつつ、すっかりしみ込んでしまった劣等感が、それを当然のこととして、認識させていたのだった。
「ネジはお前の作る朝食が美味いと言っていたし、楽しみにしているようだったから、きっと喜ぶぞ」
食器の乗った盆を持って台所へ歩き出したヒナタの背中に、ヒアシがぽつりと言葉を紡いだ。
ヒナタは一瞬足を止め、喜びに震えてしまった心のトキメキを感じながら、でも、それを悟られるわけにはいかないので、「そうですか」と返事をし、台所へ向かうのだった。
喜びで浮かんでしまった嬉し涙を拭うこともできぬまま、ヒナタはじんわりと温かさの広がっていく胸に、幸福感を抱いていた。
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父や妹の為の夕食の準備をし、その後、張り切ってネジの弁当作りに取り掛かるヒナタ。
「兄さんは任務で体力を使われるのだから」と言い訳を呟いて、家族への食事よりも数品増やしてしまう恋心。
そんな自分に苦笑しつつ、少しでも喜んでもらいたいと、ヒナタはせっせと美味しいおかずを作って、大きめの弁当箱に詰めていくのだった。
「兄さん、喜んでくれるかな……」
祈るように呟いて、そっと蓋を閉める。
時刻は程よく、ネジの任務が終わる予定という夕刻の頃だった。
ヒナタは手早く弁当箱を風呂敷で包み、準備を整える。
丁度、頂き物の美味しいお茶があったので、わざわざそれを沸かして、水筒まで用意した。
「ネジ兄さんのお家に、お茶葉があるか分からないものね。あればその場で入れて差し上げられるけれど、万一切れていたら大変だもん」
ウキウキと過剰なまでにネジへの心遣いをし、ヒナタは、軽やかな足取りで、父のいる部屋へと小走りに向かう。
「ネジ兄さんに、お弁当を届けてきます。お茶の支度など、お手伝いすることがあるなら、少しさせて頂こうと思いますので、もしかしたら、帰りが遅くなるかもしれません。その時は、夕食を作ってありますので、私を待たずに、ハナビとお食事して下さい」
ひょこっと障子をあけて覗きこみながら弾んでしまう声を響かせる。
新聞を読んでいたヒアシが、涼しげな顔でヒナタを見つめ、「ああ、分かった」と短い返事をくれた。
「では、行ってきます!!」
障子を閉め、ヒナタはまた、パタパタと廊下を走って荷物の用意を整えてある玄関へと向った。
……閉じられた障子の向こう側で、ヒアシが「子供のようにはしゃぎおって」と呆れながら優しく笑っているなんて、ヒナタは夢にも思っていなかったのだった。
*******
ワクワクドキドキと期待に胸を膨らませ、少しだけでもネジと二人きりの時間を過ごせるかもしれないと、ときめいてしまいながら、ヒナタは夕焼けに染まる空の美しさに負けぬ笑みを浮かべて、ネジの屋敷へと向かう。
ネジはどんな顔をするだろうか?
驚くだろうか?
喜ぶだろうか?
勿論、ヒアシの提案でヒナタが作ったということが大前提だから、ヒナタの乙女心になど気付いてくれるはずもないし、気付かれては困る。
でも、きっと、礼儀正しいネジのことだから、優しく微笑んで「有難うございます」と言ってくれるに違いない。
その笑顔を見られるだけでも、今日は素晴らしい一日になるはずだと、ヒナタは思っていた。
ほんの僅かな時間だけでも、ネジの為に何かをする女になれることが、嬉しかったのだ。
それなのに……。
何も疑わず、何の予測もせず、ヒナタは機嫌良くネジの屋敷まで来たのだが、敷地に入ろうとした所で、足を止め、慌てて、生垣に身を潜めた。
ネジの声と、そして、女の声が響いていたのだ。
怖々と様子を窺う。
任務中とは違い、里の中で行動する時までピリピリと周囲の気配に気を配る者はそうそういないので、物音を立てなければ大丈夫なのだろうが、それでもヒナタは緊張に息を潜め、任務中の時のような必死さで、気配を殺そうと頑張った。
そして窺った先に、玄関の前に立つネジと、そのネジに、何かを渡そうとしている小柄な女性の姿を見付ける。
ちらりと見た女性の横顔は、ヒナタも知っている人物の物だった。
分家の中で、一番の器量良しと言われている娘……。
日向の若者たちにとってアイドル的存在と言われている、娘だった。
見た目だけでなく声も可愛いその娘が、照れたような笑みを浮かべながら、手に持っている四角い物をネジに渡そうとしていた。
「夕食を作りすぎてしまったので、ネジさんに食べて頂けたらと思って……。任務がお忙しくて、お食事のことなど、大変なのでしょう?」
自分と同じ恋する乙女の目をした、彼女の色づいた笑顔が、浮かれていたヒナタの心を直撃する。
分家の中で一番有望と言われているネジと、分家の中で一番の美女と言われている女性。
二人が寄り添おうとするのは至極当然のことであり、きっと、誰もが祝福するカップルとなるのだろう。
ヒナタは手に持っている四角い包みを見つめた。
「……私が、『父上に言われて作ってきました』って持って行っても、兄さんには迷惑なのかもしれない……。だって、あんなに綺麗な人が、お弁当を持って来てくれるのだもの……。本家からの差し入れを断ることは出来ないと、食べて下さるかもしれないけれど、でもきっと、あの人のお弁当の方が嬉しいに決まっているもの……」
冷え切った心がヒナタの体から力を奪う。
羽が生えたように軽い足取りで歩いてきたのがうそのように、体が重たく感じられた。
そして浮かんでくる涙。
ネジとのことを現実的に夢見ようとは思っていなかった。
きっといつか、ネジは自分ではない誰かと寄り添って、幸せそうに笑うのだろうと覚悟もしていた。
でも、そんな日はまだまだ先で、もう暫く、ネジの傍にいる事を許してもらえると思っていたのに……。
お弁当の差し入れをする程度のことは、許して貰えると思っていたのに……。
浮かれていた分、胸が痛かった。
期待していた分、心が苦しかった。
泣きたくて……。
ひどく泣きたくて……。
作ってしまった弁当を誰にも見られたくなかった。
受け取って貰えなかった弁当は、そのまま、ヒナタの恋心を指しているかのようだった。
ひっそりと咲いたヒナタの恋心。
そして、作られたことすら知って貰うことなく持ち帰ることになった愛情弁当。
「……バッカみたい。……私……バッカみたい……」
そう呟いた時、ついに涙が零れ落ち、ヒナタはもう何も考えられなくなって、来た道を駆け戻った。
誰にも会いたくなくて、家にも弁当を持ち帰りたくなくて、静かな所でいっぱい泣いてしまいたいと思った。
誰にも気付かれない場所で、全てを葬って、全部にけじめをつけて、ただの従妹としてネジの前に立たねばならないのだから。
ヒナタは秋色に輝く山を目指して、全力疾走したのだった。
********
カサカサと落ち葉の絨毯を踏みしめて、ヒナタは静かな山を歩く。
まだ沈み切っていない太陽が、秋の山を美しく照らし、少し涼しい空気が、爽やかさをもたらしていた。
まるで、ヒナタを慰めてくれているかのように……。
「綺麗。この時間に来たことはなかったから、知らなかった」
泣きたかったのも忘れて、ヒナタは力ない笑みを浮かべ、大きな石を見付けると、そこに腰を下ろした。
「今日はピクニックに来たのよ。私、一人でピクニックに来たの」
そう言って笑いながら、ヒナタは膝に載せた弁当の包みを解き、蓋を開ける。
そして、綺麗に詰めた力作の弁当を見たところで、やはり涙が溢れた。
後から後から涙が溢れる。
しかし、それを拭おうとも思えぬまま、ヒナタは割りばしをパキッと割って、グシグシ泣きながら、弁当を食べ始めた。
何を食べても涙味。
程よい甘さに焼いた玉子焼きも、肉を巻きつけて焼いたアスパラも、鶏の煮物も、全部全部しょっぱかった。
「ちっとも美味しくない。こんなの、差し上げなくてよかったわ。どれもこれも美味しくないもの」
味見をした時に「美味しい」と思ったのが嘘のように、今はすっかり全てが不味く感じられる。
勿論、ヒナタの料理の腕が悪いのではない。
今のヒナタには、美味しい物を味わうだけの心の余裕がないのだ。
「ごめんね。私なんかに料理されて、みんな、可愛そうね……」
食材達すら気の毒に思えて、ヒナタはまた、小さく咳上げた。
その時―――。
「ああああっ!!!なんで食べちゃってるんですか!?」
突然、大きな声が響いた。
驚いて、箸で持った玉子にかじりついたまま動きを止め、ヒナタは目を見開く。
そこに、茫然と立ち尽くすネジの姿があった。
目を瞬かせ、状況が分からずにいるヒナタ。
そんなヒナタに構わず、ワナワナと震える指で弁当を指示すネジ。
「それ、俺に作って下さった物じゃないんですか!?その弁当!そうでしょう?俺に作って下さった物ですよね!?」
クールなネジらしくない取り乱し方で捲くし立ててくる。
ヒナタは泣いていたことも忘れて、モゴモゴと玉子焼きを食べながら、「だって、兄さんには不要の物でしょう?」と呟いた。
ネジがツカツカと歩み寄って来て、脹れっ面でヒナタの手から食べかけの弁当と箸を取り上げる。
そして、ヒナタの横にドカッと座った。
「俺の夕飯が減っちゃったじゃないですか!腹減ってたのに!」
4分の1程無くなっている弁当を見下ろして、ネジが眉を寄せた。
「あの、兄さん、それ、食べかけの物ですし、味も美味しくなかったので……」
慌てて取り戻そうと隣から手を伸ばしたヒナタだが、ネジが体で弁当をガードし、それを許してくれない。
「楽しみにしてたのに!ヒアシ様が、ヒナタ様に弁当を作って貰えるように頼んで下さると約束して下さったので、すごく楽しみにしてたのに!!」
恨めしそうにヒナタを睨んでくるネジ。
「腹減らして待っていたのにいつまで経っても来て下さらなくて、恥を忍んで宗家まで様子を見に行ったらヒアシ様が『とっくに弁当を届けに行ったぞ』と不思議そうに言われて更に驚いて、必死に探し当てたら、俺の弁当食べてるし」
不満をぶちまけたかと思うと、ヒナタが食べていた弁当を、ネジがガツガツと食べ始めた。
「に、兄さん、それ、私が手をつけていますし美味しくないから――――」
「美味しいですよ!!食べかけだろうとなんだろうと、俺は腹ペコなんです!!」
ヒナタの制止を無視して、ネジが素早い動きで弁当のおかずを口に運ぶ。
「この角、何が入っていたんですか?」
「あ、そこには玉子焼きが」
「何で全部食べちゃうんですか!?食べたかったのに!!」
「す、すみません」
「明日の弁当に、また入れて下さい。絶対ですよ?」
「は、はい。……えっ!?明日!?」
「……当たり前でしょう?今日の分が、約束よりも少なくなったのですから」
ギロリと睨まれ、ヒナタは「……そうですね。分かりました」と怖々承諾した。
泣いていた自分は何なのだろうと思うくらいに予想外の展開。
ヒナタは訳が分らぬまま、今は話しかけても忙しいであろうネジの邪魔をせず、水筒のお茶を用意してやるのだった。
*******
空になった弁当箱を、ネジが大切そうに布で包んでくれる。
そして、差し出されたそれを受け取りながら、ヒナタは「あの……」と、問いたかった事を漸く口にしたのだった。
「兄さんには、他に、お弁当を作って下さる方がいらっしゃるのではないのですか?」
怖くてネジを見られないヒナタは俯いたまま、自分の足元を見つめていた。
ネジの視線がヒナタを捉えたのを感じる。
しかし、頑なに顔を上げず、ヒナタはネジの返事を待った。
「……やっぱり、あれを見てたんですね。何か気配があったような気がしたんですが、こちらも任務が終わって気が緩んでいたので、貴女だったのかすぐに分かりませんでした」
優しい声色に感じたので、ヒナタは恐る恐る顔を上げてみる。
ネジが柔らかな笑みを湛えながら、ヒナタの瞳を待っていた。
「言ったでしょう?俺は貴女からの弁当を待っていたんです。そもそも、俺が食べたいと思ったのは貴女の弁当だ。他の人が何かの理由で持って来てくれたとしても、受け取るつもりはありません」
ヒナタはゆっくりと瞬きして、自嘲的に笑った。
「朝、父上と既に約束されていたのですから、後から差し入れをされても、受け取れなかったのですね」
弁当が優先されただけで、女として優先されたのではないと心得てヒナタはそう言ったのだ。
だが、それを否定するように、ネジが小さく笑い、隣から手を伸ばして、ヒナタの手を握ってきた。
驚いて顔を上げると、ネジが好戦的な笑みを浮かべヒナタに顔を寄せると耳元に囁いてくる。
「俺が弁当だけで満足するような男に見えますか?」
低く、色気すら感じるような声色で囁かれ、ヒナタは身を竦ませ赤面した。
ネジはすぐに身を離して、また普段と変わらない様子で楽しそうに微笑んでから、その笑みを消し、真面目な目になった。
「まずは弁当で我慢しろと言われたんです」
ぽつりと言われた言葉の意図することが分からず、ヒナタは目を瞬かせる。
それに構わずネジが言葉を続けた。
「朝食だけでなく、昼食も夕食も、ヒナタ様の手料理が食べたいと言ったら、『お前にはまだやれない。弁当で我慢しろ』と言われたんです。意地悪な笑みを浮かべてヒアシ様が勝ち誇ったような顔で、『父親の特権で、すぐには許さん』って」
驚きに目を見開くヒナタ。
だって、その会話は、まるで……。
まるで、ヒアシとネジの間で、約束が成立しているように聞こえるのだから……。
「兄さ――――」
「貴女を妻に欲しいと言ったんですよ。朝の稽古の時、『一人暮らしも不便だろうからそろそろ家庭を持て』と言われて、『では、ヒナタ様を下さい』と言ったら『すぐにやるのは寂しいから嫌だ』なんて大人気ないことを言われて、『家庭を持てと言ったじゃないですか』と文句を言ったら『うちの家庭が寂しくなるようなことを望んでいるとは思っていなかったのだ!』と逆ギレされて……。今日の稽古はいつも以上に死闘でしたよ」
ヒナタの言葉を遮り、真っ直ぐに言葉を紡いで笑うネジをヒナタは茫然と見つめる。
「ヒナタ様に異議が無いなら、反対はしないと約束して下さいました。でも、今すぐはダメという往生際の悪さには勝てませんでした。その代わり、弁当を作るように貴女に提案すると約束して下さったのです。……だから、持って来て下さった時に、貴女を口説こうと張り切って待っていたというのに……。ヤキモチやいて、子供みたいに泣きながら、一人で弁当を食べているのだから、本当に貴女は可愛らしい人だ」
クスクス笑うネジに、ヒナタはほっぺを膨らませながら赤面した。
「だって、兄さんが私を好いて下さっているなんて思っていなかったのですもの……」
「そりゃぁ、忍ですから、虎視眈々と、気付かれないように狙っていたんですよ」
「……私、自分の想いを告げぬまま、玉砕する覚悟でいたのに……」
「そんな覚悟をするくらいなら、もっと別の覚悟をして下さい」
そう言って、ネジが真面目な瞳でヒナタを見据えた。
「……別の……覚悟……?」
ネジの瞳から目を離せぬまま茫然と問う。
ネジが強気な笑みを浮かべた。
「明日も明後日もその次も、俺に弁当を作って下さい。そして、今日みたいに一緒に食事をして下さい。来年も再来年もその次も、俺に寄り添って、日々の食事を一緒にして下さい。妻となって。家族となって。子を授かったらその子に食事をさせ、その成長を俺とともに見守り、愛し、育て、この先の時間を一緒に過ごして下さい。……もう、俺という男の傍から離れないという覚悟を、早急にして下さい。死が二人を別つまで、どうか、一緒に生きて下さい」
きっぱりと言い切ってから、「嫌ですか?」と問うてくるネジ。
ヒナタは、大粒の涙を零しながら、「嫌ではないです。……とっても、楽しみです」と震える声で返事をし、そして、ネジへと身を寄せた。
ネジの腕が優しく抱きしめてくれて、ヒナタはネジの肩に顔を埋めて喜びに震える心のままに泣いた。
自分の想いが届くとは思っていなかった。
自分の恋が成就するとは思っていなかった。
誰かを愛しても、その相手が必ず愛を返してくれるとは限らない。
だから……。
だからこそ……。
愛した相手と寄り添って、一緒に食卓に着くことは、奇跡に近いことだったのだとヒナタは知った。
「明日は、もっと美味しいお弁当に出来るように頑張ります」
泣き笑いの顔でネジを覗き込む。
ネジが幸せそうに笑って、優しくキスをしてくれた。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
それは弁当への言葉なのかキスへの言葉なのか分からない言い方で……。
驚いて目を瞬かせたヒナタと、悪戯が成功したという様子で目を輝かせるネジ。
見つめ合ってから同時に二人は笑いだし、抱きしめ合った。
秋の山はカサカサと枯葉の音色を風に乗せ、美しい季節を祝福している。
その景色の中に立ち、二人は至福の笑みで寄り添って、誰もいない静かな場所で、永久の愛を誓い合うのだった。
あとがき
はじめまして。白猫と申します。
ネジ兄さんが大好きなヒナタ様を書くことと、そのヒナタ様を誰よりも慈しむ人としてネジ兄さんを書くことが日々の喜びとなっております。
今回は、ネジ兄さんがちょと崩れておりますが(笑)、ヒナタ様の杞憂を楽しく吹っ飛ばしてくれる人であってほしくて、こんな風になりました。
秋の紅葉のように、ほっこりと赤く色づくような作品になっていたらいいなと思います。
(UP 09/10/12)

